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2005'10.24.Mon
望んで海の泡となる
ガンダムシードのイザーク夢です。 「兎は静かに泣く」の続編らしい。
望んで海の泡となる

を訪ねると、彼女はやわらかい顔をして笑った。薄いピンクのワンピースがその穏やかな表情にとても似合っている。はごく自然な動作で俺の行き場のなかった手に触れ、白く柔らかい小さな手で俺を繋ぎとめた。少女の体温、わずかにあたたかい。彼女が自ら感情を表してくれるようになったことをとても誇らしく思った。触れる手のひらは、好きだ、と声のない言葉を伝えてくる。臆病で人見知りで、他人に領域を赦せないウサギが、自分にだけ心を開くというのは、俺の高い矜持を刺激するのだった。高すぎて手のつけようがないといわれるプライドも、この女には容易く、無意識に手懐けられた。庇護欲をそそるのかも知れない。遺伝子の相性というものは、性格の相性にも影響するのだろうか。だとしたら、俺とアスランザラの相性は最悪だから、ラクス嬢とのそれも最悪になる。これには少し興味をもった。

案内された部屋のテラスには、ぬるくなった紅茶の入ったティーセットと、一冊の本。金色のうすいしおりがページの中ほどに挿まれている。深海を思わせる瑪瑙色に、光がさしたような表紙をしていた。

「なにを、読んでいたんですか?」
「童話の、人魚姫を、ご存知ですか?」

は少し恥ずかしそうに応える。白い頬に僅か朱が指した。

「ああ、それくらい知っています。」
「あれの、絵本でなく、少し長いものです。装丁がとても綺麗で、つい買ってしまいました。」

衝動買いを恥ずかしく思っていたのだろうか、目の前の令嬢は目を伏せながらはにかむように笑った。肌に睫毛の影がかかる。金色をした睫毛がキラキラしていた。たどたどしく言葉を発するのは、もう癖になっているのだろうか。打ち解け始めたというのにやはりお互いに蟠りがのこっている。氣を取り直して尋ねてみた。

俺にはどうしても人魚姫がよく理解できなかったのだ。裏切った男を救うために、声さえ失った女が命まで投げ出すなんて莫迦じゃないのか。自己犠牲のなにが愉しいというのだ。到底理解できたことではない。

「面白いですか、」

は少し目を開き、口元に微笑を浮かべた。か細い指がページをパラパラとめくり、文章に魅入る。俺はというと、陽の光を浴びて輝く、彼女の金髪に目を奪われていた。

「はい。もう5回も読んだのですけれど、とても胸がくるしくなるのです。嗚呼泣いてしまいそう。人魚姫が泡になってしまいました。イザーク様、とても悲しい」

「俺にはよくわかりません。どうしてその女・・・人魚姫は自分を裏切った王子なんかのために死ねるのか。莫迦みたいだ。」

は少し困ったように微笑むと、ゆっくりと瞼を伏せた。精巧に造りこまれた、彫刻のような美貌にうすら影が過ぎる。
最近になってようやく気付いたことだが、彼女はとても多くのことを考え、憂い、そして苦しんでいる。一見ただの少し抜けたところのある令嬢に映るのだが、それさえも計算のうちなのだろうか。穏やかな外見とは裏腹に、厳しく、強情な面を備えていた。
彼女は自らをとても密かに忍ばせ、それを気取らせない。他人に疎い俺がそれに気付けたのは、むしろその疎さのためだったかもしれない。

「確かに、莫迦、なのかもしれませんね。王子様を見捨ててしまえば、ご自分は助かったのでしょうに。・・・でも、人魚姫はそれが出来なかったのです。」

少女の、幼さがまだ同居する横顔を愛でる。
開かれた、北国の海の底色をした瞳に迷いは見えない。

「わたくしも、きっと、もしイザーク様が他の女性に戀をされても、わたくしの命であなたのお命が救えるのだとしたら、きっとわたくしは望んで海の泡となります。」

「何故そこまで云えるのですか。」

祖国のために戦線へ出た俺が云えたことではなかった。
俺自身が、死を覚悟に彼女を守ろうとしていたことに思い至った。

「さぁ、どうしてでしょう。そう思ったのです。直感です。」

「直感、・・・めずらしい、はいつも言葉を選ぶのに。」

「イザーク様もそう。わたくし・・・もっとあなたのことを知りたいのに。」

クツクツと笑いが漏れる。
いたずらっぽく口角を吊り上げるに憂いは感じられない。

「俺たち、すれ違ってばっかりだ」

「本当に。・・・でも、糸は切れておりませんでしょう?」

「糸?」

「糸は赤い色をしておりますわ。」

差し出された小指に自分の其れを絡める。か細い指は柔らかく肌に馴染んだ。が指の付け根に唇を押すと、薄紅の刻印が刻まれていた。愛を囁く少女。不器用に其れに応える。
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