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2006'01.19.Thu
君の世界は揺れていた
プリチー完結⑤
君の世界は揺れていた




彼はわたしに触れることを恐れていると思った。伸ばされた指先が、頬に届く前に空を切った。わたしは苦しくて苦しくて、どこが苦しいのか分からなくなった。彼は未だあの美しいひとをひどく愛している。彼女にあったことはない。けれど彼が彼女を語るとき、その瞳は穏やかに笑み、唇は美と憧れを語った。彼は愛を殺し、愛したひとの息子を殺した。彼の美しいひと。わたしでは彼女に成り得ない。愛しているのに。愛されたいのに、愛したいのに。彼はただ自分の罪を責めるばかりだ。そこにわたしの入り込む隙間なんてない。わかっている。けれど、と思うことをやめられなかった。



「愛してます、ヴィンセントさん」



言葉が彼を苦しめると分かっていた。優しいひとは言葉に怯む。あなたのそんな顔が見たいのではないのに。長い時でさえも癒せなかった彼の想いを、わたしに癒せるなんて思っていない。ただ恐れず触れて欲しかった。あなたは独りじゃないのだと、わたしを通して感じて貰いたかった。触れることで分かることもある。人のぬくもり、存在、居場所。過去を忘れることはないのだ。昇華し未来への糧へすればいい。滞る指。涙を拭ってはくれない。言葉はなく、溢れるのはわたしの想いばかりだ。



…」



彼の呼ぶわたしの名は、とても大切なもののように聞こえた。彼が名を呼んでいる。それだけで充分ではないか。臆病な心は嫌われるを恐れている。ヴィンセントさん。わたしの美しいひと。傷付くことを、付けることを恐れないで。わたしはあなたが思うほど弱くは無いから。



…」
「手を…」



彼の手は冷たかった。触れる指。震えている。甲に手のひらを添えた。彼の指はごつごつしていた。この手が、かの人の頬にも触れたのだろうか。そのときこの手は震えていたのだろうか。目を閉じた。體に血が通う。熱くてたまらない。彼がわたしに触れているというそれだけで、心臓が高く脈打つのがわかった。これを戀と呼ばずになんというのだろう。彼の名を、なんども、なんども呟いた。ヴィンセントさん。ヴィンセントさん。わたしの愛する人。愛してくれとは云わないから、どうか側においていて。罪を理由に不幸を背負わないで。



「わたしは、あなたを置いて、きっと死んでしまう。わたしは不老不死ではないから。あなたをおいて、歳を取って、おばあちゃんになって、きっと死んでしまう。」



触れる手が揺れる。ビクと動くてのひら。あなたはあたたかいよ。



「けれど、けれど!ヴィンセントさんがすき。幸せになってほしい。わたしの思う幸せと、あなたの思うそれとは、ちがうものかも知れないけど・・・。わたしは、ヴィンセントさんといて、不幸にはなれない。」



ここで泣くのは卑怯だ。彼の困り果てたような、目を見ていられなかった。泣いてはいけない、と思った。俯いて、目をそらす。地面が濃く滲むのが見える。泣くまいとするたびに、引き付けを起こしたような声が喉から漏れた。ヴィンセントさんが呆れている。きっと。呆れている。



「泣くな、・・・どうしたらよいか判らなくなる・・・」
「ごめんなさ、ごめんなさい。止まらないの・・・ごめんなさい。ごめ・・・」



指先が触れた。
ぐちゃぐちゃになった顔を撫でる、指。冷たい指。不思議と涙は止まってしまった。涙をぬぐわれる。なんて心地よいのだろう。初めて、彼から私に触れた。



「わたしは、今もルクレツィアを愛している」
「・・・しってます」
「彼女はなににも変えられない人だ」
「はい」
「わたしはいつも、お前を泣かせてしまうな」



なにも云えなった。空が滲んで見えた。彼の赤も、髪の黒も、境界線が見えない。揺れているようだと、思った。



「もう、恐れないよ



この感触は何だ。とても近くに熱を感じた。心臓の脈打つ音、呼吸する音。あなたの腕は、こんなにも力強いものだったのか。息が出来なかった。締め付ける両腕。酸素が足りない。
けれどもっと強くと、わたしは求めた。




(不幸にはなれない)
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