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2006'01.19.Thu
にじむひかり(ツォン)
にじむひかり(ツォン)R指定

女の魂は暗い深海にあった。一遍の光もない海底は、穏やかに冷水が充満している。濁流に呑まれることのない代わりに、そこは常に永劫の黒であった。このような世界にあっても、目映いばかりの光を欲した事はなかった。人でなしと呼ばれようと、実際にそうであったし、女の職業においてはそれすら幸いであったのだ。




にじむひかり




女は美しかった。
くせのある黒髪が白い肌を映えさせ、冬空の色をした瞳が宝玉のように存在している。絶妙のバランスの上で成り立つ、彫刻のような美しさは、それ故に心のうちを見せることはなかった。彼女がもう少し、その美を完成させぬ造りをしていたのならば、その僅かなくずれが人間らしい表情を装ったのだろうが。



ツォンは女を抱いていた。彼に振り返った女の唇を吸いながら、男は體を奥へと進めた。女の、人形のような顔が快楽に歪む。壁についていた手には力がこもり、足は自然と爪先立ちになった。細いが肉付きのよい腰をつかまれ、変則的に差し抜きされる荒々しいが技巧的な男の動きに、は甘い余韻を残す声で果てた。



ツォンは膝を折った女を抱き上げると、そのままバスルームへ向かった。最近では行為のあとに二人で湯につかることが日常となっていた。汗をかいたままで眠りたくない、とめずらしくが主張してからは、男は気を失ったままの女を労うように、彼女をバスルームまで運ぶようになった。適温に温められた湯が、二人の体積を受けてバスタブから溢れ、排水溝へと吸い込まれた。男は腰の上に乗せた女のからだに、ソープを泡立て、丁寧に洗い始める。
トリガーをあまりにも引き慣れた、長く筋張った指が、女の柔肌をなぞっていく。女は湯の心地よさと、愛撫にも似たツォンの触れる感触に、その精神をとりもどした。



「ツォン・・・さん」



女の声は、先ほどのあえぐそれよりも、随分と幼く聞こえた。



、ムリをさせたか?」
「・・・好かったです・・・」



女、というより少女と云うべきであろうか。の顔は、よくみるとまだあどけなさが残っていた。男は女の首筋に唇を這わせ、ソープでよく滑る指を、腕から胸、腹、中心へとやった。女は気持ちがよいのか、甘い声を出す。



「もっかい、しましょうよ」



ツォンは求めに応じるように女のカラダを抱きしめ、その肌を舐めた。微かにソープの苦い味がした。






男は女がそれなりに彼を愛していることを知っていたが、彼女が心の穴を埋めるために自分を利用していることも知っていた。彼女の根本的な感情が救いようのない深い闇にあることも気付いていた。出会ったとき、少女は既にあまりにもすぐれた暗殺者であると同時に、自身の死をも厭わないただの人形でもあった。男はこも憐れな人形にタークスとしての(塵のような)誇りを教え、また闇を照らそうと試みたが、それは失敗に終わった。彼女は金で人を殺す、本物のアサシンであったからだ。ある程度の協調性を身につけ、快楽主義者の皮を被った少女は、カラダを繋げるその時でさえも、その皮を脱ぎ捨てることはない。偽りの中で生きている女。



男は彼なりに少女を全力で愛し、彼の半分を与えたが、の心に光は差さない。







ライトを消したバスルームは全くの暗闇だった。半身の浸かったままの浴槽で、女の意識は深海にある。何も見えない浮遊感。其処はの魂があるべき場所に似ていた。だんだんと熱を失っていくバスの中は、ひんやりとしていて、カラダはそれに身震いをした。男に抱かれたばかりの気だるい下半身が、そこだけ別のもののように熱をもっている。痛みともとれるその熱は、が唯一自分が生きていると実感させられるものであった。深海には様々な生物が存在しているが、彼らは滅多なことではお互いを知ることはない。暗い闇の中でただ独り、その生を終えるのだ。



は人間と、他人と深く付き合うことが初めてだった。その多くの理由が、今まで出会ってきた人々は、皆脆く、すぐに死んでしまったからだ。ツォンや、タークスの面々は、彼らが生きる世界の波に呑まれぬ程度に強く、未だ別れのときは迎えていない。ツォンは一見冷ややかな男に見えて、その実、熱いものを持っていた。彼女は男のくれる快楽と、優しさに満足していたし、それ以上も以下も望みはしなかった。は闇に生きる力を持っており、みることは出来ない海面にきらめく月の光を臨むほど愚かでもなかった。深海から光を求め上を目指しても、水圧でそれは敵わぬことなのだ、と判っていた。もっとも、自分に光を感知する目が付いているのかもわからないのだ。



女は深海にもぐった。



「冷えたな、温めよう」
「え」



のカラダがふと浮き上がる。うつろな意識の中、彼女は独りで海底にいたというのに。男の質量のある腕が、彼女を現実に引き戻した。



「寒くないか?」
「・・・ちょっと」



男は金細工の蛇口をひねり、熱い湯を足した。
水が流れる。カラダが浮く。深海に暖流が交じりだした。ツォンはどこかへ手を伸ばすと、古いマッチを擦り、そこにあった蝋燭に火を燈した。オレンジの光が暗闇に浮かぶ。
瞬間、の瞳からはわけもわからず水滴がこぼれた。



「ひかりが・・・」




「どうした」
「ここにも光があったんですね」



その光は女の闇を朧げに払拭する。深海魚が進化の過程で光る力を手に入れ、その漆黒を淡く照らしたように、彼女の心に灯りが点った。
海は動き、暖かく少女を包む。海の底は、冷たいばかりではなかったのだ!



「ツォンさん・・・ツォンさん・・・」



魂に光が差す。
それは決して眩しいほどのきらめく光ではなかったが、黒に滲む暁色のそれは、彼女が本当は求めて止まない希望だった。



美貌が幸福に彩られる。



「・・・光は、どこにでもある」



だんだんと熱を取り戻し始めたカラダが男に強く抱きしめられる。顔を上げるといつになく優しい口付けを受けた。



光は、こんなにも近くに存在していたのだ。女は誰かの前で初めて声を上げて泣き、鍛えられた胸に顔を押し当てた。



そこには確かに、信頼と愛情があった。

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