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2005'10.24.Mon
兎は静かに泣く
ガンダムシードのイザーク夢。 すれ違ってきた婚約者と戦後の再会。

兎は静かに泣く



最後に会ったのは終戦前の補給休暇の数時間だった。
それから半年近く、彼女と会える日はなかったのだ。なぜかって、俺は軍人だから。
終戦だ、と思えばすぐに戦後処理として俺も駆りだされ、死んだものとか、消えたものとか、生きてるか死んでるか分からないものの戸籍書類をデスクに積み上げ、苦虫を擂り潰しながらかつて仲間だったその情報だけを彼らの家族に届けた。
久しぶりに確保できた自由な休暇は、すべて彼女と共に過ごそう。きっと喜んでくれるだろう。



リチェルカ-レはこの僅かな時間のために真っ白なミュールとパステルカラーのワンピースを新しくおろし、髪を丹念に梳きルージュを引いた。
久々に会った婚約者は以前と変わらず頬に口唇を落とす。
彼女は、おかえりなさい そう小さく囁いた。
けして遠くないが、親密というには遠すぎる二人の距離は僅か。
肩が触れればきっと彼女を驚かせてしまうから、俺はただ婚約者の隣に佇む。

「おかえりなさいませ、イザークさま」

震えた声にどれだけ心配を掛けていたのか伺えた。
俺が軍に属することをリチェルカ-レが望まないことは分かっていたが、俺がこの世界を護らなければ、誰が彼女の住むここを守ってくれるのだろうと、エゴだったのかもしれない。
結局、奢っていたほどの―-フリーダムのような‐―力は持てず、彼女を守ったのは俺ではなかった。
くやしさが胸に込み上げたが、しかたがない。それが真実だ。

俺の顔にまだ深々と残っている傷跡に触れようとしたのかただ反射的に上がったのか、持ち上げられた細い小さな手の指先にそっと触れ、それを柔く握った。
一瞬ピクリと体を震わせたが小さく微笑んでそれを受け入れる。
ただいま戻りました。
そう言って彼女の手の甲に口唇を落とした。
この細い手を、自らの力で守りたかった。

罪悪感からか、彼女の瞳をまっすぐに見つめることができない。なにがどう、悔しくてイラついているのかさえ判断できないなんて嗤えてしまう。この罪悪感の出所さえも突き止められないのだ。
また生きて会えてうれしい、とどうして伝えられないのだろう。
俺は沢山のものを亡くしたが、最も大切な人はこうして生きているというのに。

「イザ-ク様、わたくし幸せですわ」

不意に、リチェルカ-レははっきりそう言って、少しだけ距離を詰めた。
彼女の長い髪がサラと揺れ、ワンピースの裾が俺の足に布越しに触れる。
ぎこちなく繋がれた指先は絡めるように促された。
このように手を繋いだのは初めてかもしれない。
婚約が成立してすぐ離れてしまったからリチェルカ-レと会う機会なんて全くと言っていいほどなかったのだ。

あたりまえか。

日差しが温かい彼女の好きなテラスへと移動する間中、俺がなにを話し掛けてもただ頷くだけだった彼女はあと少しで目的地というところで歩を緩める。
握り返された指先からは、リチェルカ-レの高くもなく低くもない俺と同じくらいの温度が伝わってくる。
生暖かいそれは少しでも震わせば解けてしまうほど弱いもので、俺は繋ぎとめようと出来るだけ動かさないように努めた。
よく手入れをされた彼女の爪先が指の腹にあたりくすぐったい。
テラスに近づくにつれて漂ってくる彼女の好きなアップルティの香りが鼻腔を麻痺させる。
窓ガラスをつき抜け室内に入ってくる陽光は影の部分に白い光跡を残していた。

「いきなりどうしたんですか」

テラスは目前、だが彼女は足を止めた。
繋がった手が軽く俺のそれを引っ張るのでふと横を見るとリチェルカ-レの瞳が目に入った。
ブルーなのかグリーンなのか微妙な彼女の瞳は瞳孔が小さく閉まり、俺に合わせてピントを絞った。

彼女が自分の、綺麗ですねとかそういった感情以外を見せることは極めて稀で、それは俺に心を許していないからだと承知はしていた。
自分の感情を表に出すことが苦手なのでもあるのだろう。という女は生きることに不器用で、言葉を畏れているように見えてならなかったから。
その彼女が幸せ、だといったのだ。
驚くより慌てて聞き返した。
幸せ、が彼女に何を意味するのか俺は其れを知らないが、けして悪い意味はないだろう。

「すごく・・・幸せですの。あなたがわたくしのお隣にいらっしゃって・・・お話ができて・・・変ですか?」
「変、ではない、ですが」

彼女が俺といることで幸福を感じていてくれているとは夢にも思っていなかった。
ほったらかしの婚約者。
親同士の取り決めと第三世代への希望のための婚姻予約。

ときどき彼女の幸せとはなんなのだろうと考えることもある。
俺から見たリチェルカ-レは模範的な令嬢で、美しい装いをしてガラスケージの中に閉じ込められた人形だったからかもしれない。
俺との婚約にあたなの自我はあるのですか、以前何度も聞こうと試みたこの言葉は俺の中で消化されずに残っている。
だが、おまえには自我があったのか、と聞き返されれば俺はYes.と言えただろうか。
彼女にだけ答えを望んでも偽りの其れが返されるだけだ。

彼女と俺の関係は曖昧で絶対でそしてもろいものに思えてならないのだ。
リチェルカ-レという名の女を俺は愛すことを強制され、彼女も然り。
どちらかが突き放せば簡単に壊れる二人の絆ははたして彼女が慾したそれなのか。
ただ俺は恐れている。
一歩踏み出して拒否されれば、俺の淡い彼女への愛情は消えてしまうのだろうから。

淡い愛情というには、失いたくない恋だ。

「あのときは、もう こうして会えないと思いましたから」

視線を外して、少し俯く少女は傷つくことを恐れている。
俺はやっと彼女の瞳に視線を向けた。

「俺が死ぬと思いましたか、リチェルカ-レ」
「いいえ わたくしが」
「なぜあなたが。」
「イザ-ク様にお会いできなくて、寂しくて、死んでしまうと」

思いまして、とリチェルカ-レは続けると、俯いていた顔をゆっくりあげた。
不思議な色彩の瞳はそこに俺だけを映し、何度か瞬きをする。
瞬間的に頬に落ちる長い睫毛の影がリチェルカ-レの白い頬に浮かんでは消えた。
恐れはない。

戦場で、死を覚悟した敵は強かった。
其れと同じに今俺を見つめるリチェルカ-レの瞳は強い。
彼女は何を覚悟しているのだろうか。

「あなたは寂しいと死んでしまうんですか?それじゃあ兎みたいだ」
「じゃあ、兎なんです。きっと・・・あなたの前では」

少女は一度、ゆっくりと瞳を伏せ、喉を鳴らした。か細い首だ。折れてしまわないのだろうか。

「わたくしのお友達の、婚約者さまや、お友達や、知らない方や、・・・たくさん、居なくなってしまわれましたので、とても不安で恐ろしくて、あなたがとても大切に、戀しくてならなくて・・・。今わたくしは幸せです。それは喜ばしいことであって、けれどとても申し訳なくもあって。」
「残されたものは、幸せになる義務があります。畏れないでください。」

繋がった手の、細すぎる指が震えていた。

好きなのです。わたくしを置いていってしまわれないで。もっとキスをください。手を繋いで。わたくしをどうか恐れないでください。
少女はゆっくりと、消え入るような声で訴えた。
高音の波は俺の鼓膜を刺激して、彼女の発する意を届ける。
また俯いてしまった。
あなたの瞳に移る俺の姿を見せてください。

「リチェルカ-レ」

俺は彼女の名を呼ぶとそのまま細い体を抱き締めた。
少女の肌は柔らかく暖かい。
白く艶やかで俺にとっては非現実的なうつつに思えてならなかった。
リチェルカ-レは寂しくて死ぬといったが、それも彼女なら十分に考えれれるな、と彼女を抱き締めるとふと浮かんだ。
今度こそこの手で守り通そう。

顔を引き上げ目じりに浮かんだ露を舐めるとしょっぱかった。
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